FTXとは、2022年11月に経営破綻した米大手暗号資産(仮想通貨)取引所です。取引高で当時世界第2位だったFTXの破綻は、業界全体に大きな衝撃をもたらしました。破綻によりFTXが抱えた負債総額は約7兆円、損害を受けた利用者は100万人。同社サム・バンクマンフリード元CEOの杜撰な運営体制が、この事件を招いたとされています。
FTX事件が一因となり仮想通貨市場全体の社会的信用が失墜し、金融当局が規制を強めるきっかけとなりました。FTX破綻を機に多くの投資家がマーケットから資金を引き上げ、相場が冷え込んでしまったために暗号資産の「冬の時代」が訪れたとされています。
本記事では、FTX破綻の原因、FTX事件が仮想通貨業界にもたらした影響等に焦点を当てます。そして、この仮想通貨史に大きな爪痕を残した事件から、我々が学ぶべき教訓について解説していきます。
FTXとは? 基本概要を説明
FTXの概要 | |
設立年月日 | 2019年7月 |
創業者 | サム・バンクマン・フリード(Samuel Bankman-Fried)
ニシャド・シン(Nishad Singh) ゲイリー・ワン(Gary Wang) |
本部所在地 | バハマ |
営業利益 | 約1,400億円(10.2億ドル)(2021年) |
仮想通貨取引所としての特徴 | 業界初となるデリバティブ、オプション、レバレッジトークンなどを提供 |
2019年5月、MIT(マサチューセッツ工科大学)出身の若き天才実業家サム・バンクマン・フリード氏らによってFTXは設立されました。暗号資産業者としては後発でしたが、同業他社の買収やスポーツ選手等を広告塔に起用することで瞬く間にユーザーを獲得し、規模を拡大しました。設立後3年未満で、海外仮想通貨取引所最大手バイナンスに次ぐ世界で2番手の規模まで成長。2022年11月のFTX事件当時には100万人以上の利用者を抱えていました。
FTXは仮想通貨業界初となるデリバティブ、オプション、レバレッジトークンなどによる金融派生商品を提供。当時はまだ、一般的な仮想通取引所は、ビットコイン購入等の現物取引やレバレッジ取引を中心にサービスを提供していた最中でした。その中において、FTXの多様な金融商品を取り扱っていたため、多くのトレーダーの注目を浴びました。
FTXが提供していた主なサービス
FTXは以下のサービスを提供することで、競争が激しい市場において差別化を図りました。
- 初心者にも扱いやすいプラットフォームを提供:直感的なユーザーインターフェースと高度な取引ツールを提供しました。これにより、初心者からプロまで幅広いトレーダーがスムーズに取引することが可能になりました。
- デリバティブ取引プラットフォーム:暗号資産交換業者として、世界で初めてデリバティブ取引プラットフォームを提供。複雑な取引戦略とリスク管理オプションをサポートしており、多額の資金を持つ機関投資家や経験豊富なトレーダーに適していました。
- トークン化された株式の取引機会の提供:暗号資産交換業者として、世界初の株式取引を提供。TeslaやApple、Amazon、Facebookなどのアメリカ株、AlibabaやNio等の中国株を揃え、高い需要が見込まれる株式を数十程度上場。それぞれの株式をトークン化させ、現物市場と先物市場がにて提供していました。
- 高レバレッジ取引の提供:FTX利用者は、最大20倍のレバレッジを活用して取引を実施することが可能でした。
上記の特徴を生かし、FTXは従来の金融市場と仮想通貨市場の橋渡しを図りました。多くの機関投資家やプロトレーダー向けの金融商品を豊富に展開したため、莫大な営業利益を得ていきました。
FTXの設立背景と歴史
FTXの歴史を語るうえで、創業者であるサム・バンクマンフリード氏(以下、SBF氏)の経歴は欠かせません。以下のSBF氏の経歴と絡めて、FTX設立までの歴史を紹介します。
FTX創業者SBF氏の経歴
- 1992年生まれアメリカカリフォルニア州スタンフォードで生まれる
- スタンフォード大学の教授を両親に持ち、自身はMIT卒業
- 大学時にインターン生として就職したヘッジファンド会社Jane Street Capitalで、トレーダーとして優秀な成績を収める
- 仮想通貨取引会社「アラメダ・リサーチ」を2017年に設立
- 事件の発端となる仮想通貨取引会社「FTX」を2019年5月設立
- 29歳という若さで約2.5兆円もの資産を築き上げ、2021年には20代で唯一米国の長者番付「フォーブス400」にランクイン
- 米民主党政権とも近しく、中間選挙前には民主党に3,990万ドル(約56億円)を寄付しており、個人の政治献金額ではトップ10に入っていた
- FTX破綻により数日で資産の9割以上(およそ2兆円)を失う
SBF氏の生い立ち
1992年に米スタンフォード大学のキャンパス内で、ユダヤ人の家庭で出生。両親はともにスタンフォードロースクールの法学教授であり、幼少期から恵まれた生活環境にあったようです。
高校時代は、数学的才能に優れた高校生のためのサマーキャンプに参加。子どもの頃からその才能をいかんなく発揮していました。ちなみに、このキャンプにてFTXの共同創業者であるゲイリー・ワン氏と懇意になったとされています。大学はMITに通い、2014年に物理学と数学の学位を取得し卒業しています。
大学3年時に、米ヘッジファンド会社Jane Street Capitalにインターン生として就職。卒業後は同企業においてフルタイムワーカーとして働き始めました。瞬く間に天才トレーダーとしての片鱗を見せつけ、1年目(23歳)の年収が30万ドル(約4800万円)、2年目(24歳)は60万ドル(約9600万円)、3年目(25歳)は100万ドル(約1億6000万円)にもなったとの逸話があります。
アラメダ・リサーチの設立
SBF氏は2017年末に金融市場を席巻したクリプトブームに興味を持ち、暗号資産のマーケットに大きな収益機会があることを発見。それは、米国と日本市場でのビットコインの価格差を利用し裁定取引を行うことで、大きな利益を得るチャンスでした。
SBF氏はインターン時代からおよそ3年半トレーダーとして働いていたヘッジファンド会社Jane Street Capitalを退職。トレーダー時代に培った知見を基に、MIT時代のパートナーであるキャロライン・エリソン氏とともに、FTXの親会社となる仮想通貨取引会社「アラメダ・リサーチ(Alameda Research)」を2017 年 9 月に設立しました。
この会社における主な収益は、前述の日本と米国間の裁定取引による収益でした。そして瞬く間に資金は膨らんでいきます。最盛期の資金は1億ドルに達し、その資金をビットコイン市場の裁定取引に投入。毎日およそ2,000万ドルを稼いでいたと報告されています。
FTXの設立
SBF氏および側近たちは、アラメダ・リサーチの収益に満足せず、さらに大きなチャンスを検討し始めました。それは暗号通貨取引所の構築です。
アラメダ・リサーチを含む当時の仮想通貨取引所は技術的な水準が低く、しばしば取引の停止や問題が発生している状況でした。そして、SBF氏のチームはアラメダ・リサーチを運営する中で、取引所システムの改善の余地を実感します。
デリバティブ、オプション、レバレッジ取引などの複雑な金融派生商品に興味がある人にとって、当時の仮想通貨取引所のレベルは満足できる基準に達していませんでした。そのため、SBF氏はプロトレーダーのための仮想通貨取引所を作ることができると考えました。
そして2018年末、SBF氏はトレーダーのための”暗号通貨取引所であるFTXの開発に着手。この一大事業のパートナーとして据えたのは、元GoogleのエンジニアでMITの卒業生であるゲイリー・ワン氏、コンピューターサイエンスに精通したUCLA卒の友人ニシャド・シン氏でした。
SEC(米国証券取引委員会)による、2018年初めに起こったICOブームに端を発した警告などを受けながらも、SBF氏らは2019年7月、仮想通貨取引会社FTXを創業しました。
FTX事件とは?FTXの破綻までの経緯
ここからは、FTX破綻までの経緯を詳しく解説していきます。
FTX事件経緯 | |
年月 | 内容 |
2022年11月2日 | 大手仮想通貨メディア「CoinDesk」により、FTXの財務の健全性を問うスクープが報じられる。 |
11月6日 | 海外仮想通貨取引所「バイナンス」CEOのCZ氏が、保有していたFTX関連資産を清算する旨を発表。これにより、FTX経営陣への懸念が拡大。 |
11月8日 | FTXの取引所トークンであるFTTの価格が暴落。利用者がFTXから資金を引き出す動きが加速。 |
11月9日 | バイナンスCEOのCZ氏がFTX買収を発表。 |
11月10日 | バイナンスCEOのCZ氏FTX買収を撤回。 |
11月11日 | 米国連邦破産法第11条(Chapter11)の適用を申請。事実上の破産宣告によりSBF氏がCEO辞任。 |
11月12日 | FTXのウォレットがハッキングされる。被害額は6億ドル相当。 |
11月22日 | 米連邦破産裁判所にて、FTXの破産審問が開始。 |
12月13日 | SBF氏が米連邦地検に起訴される。滞在先のバハマにて逮捕。 |
12月22日 | FTXの共同創業者ゲイリー・ワン氏とアラメダ・リサーチCEOのキャロライン・エリソン氏が詐欺罪を認める。 |
12月23日 | SBF氏がバハマより米国に移送され、 NY連邦地方裁判所へ出廷。保釈金2億5000万ドル(約330億円)に同意し保釈。 |
2023年11月 | SBF氏が詐欺や共謀など7件の罪で有罪判決を受ける。 |
2024年3月29日 | 米連邦地裁により、SBF氏は禁錮25年の判決および110億ドル(約1兆6600億円)の資産没収も命じられる。 |
上記の時系列表を元に、FTX事件の詳細を追っていきます。
2022年11月2日
FTXが破綻に追い込まれたFTX事件のきっかけは、大手暗号資産関連ニュースサイト「CoinDesk」のスクープでした。内容は、以下のようなFTXの財務的健全性を疑問視する報道をしたことでした。
- SBFのパートナーであるキャロライン・エリソン氏がCEOを務める会社「アラメダ・リサーチ」の総資産(146億ドル)の内、1/4以上が36億6000万ドル相当のFTT※であること。※FTTはSBF氏 がFTXのために導入したトークンであり、FTTの大部分が融資の担保とされていた。
- 上記のほか21.6億ドルのFTT担保があり、アラメダ・リサーチとFTX 間で巨額の資産が混在されている事
同11月6日
世界最大規模の仮想通貨取引所「バイナンス」CEOのCZ氏が、以下の内容の文章をツイッターに投稿。
- バイナンスはFTXへ出資をしていた。しかし、FTXから半ば強制的に資本関係撤回(株式を買い戻されていた)
- その際の対価として、21億ドル相当のBUSDとFTTを受け取った。
- しかし、FTX経営に対する懸念から、保有するすべてのFTT(約5億2900万ドル相当)を清算する。
これに対しアラメダ・リサーチのCEOキャロライン・エリソン氏は、CZ氏へ市場への影響を抑えるための案を打診。それは、FTT1枚当たり22ドルで全て購入するという提案でした。しかし、結果的にCZ氏はキャロライン氏からの申し出を無視しました。
同11月8日
Twitter上におけるキャロライン氏とCZ氏のやり取りを見ていた市場の反応は、FTXにとってはネガティブなものでした。顧客によるFTXからの資金引き出しが相次ぎ、72時間でおよそ60億ドルの顧客引き出しが発生。FTX側は引き出しの一時停止を余儀なくされました。それと同時に、FTXへの不信感からFTTの売りが加速。FTTの価格は暴落。騒動前の17ドル近い価格から、11/8には4ドル近くまで暴落しました。
同11月9日
CZ氏は、バイナンスによるFTXの買収を発表。これは、FTXのユーザー保護を目的に、拘束力のない買収意向書に署名したという内容でした。
突然の買収宣言には、SBF氏が “FTTの流動性の逼迫 “をカバーするため、CZ氏に助けを求めた背景がありました。
同11月10日
FTX買収宣言から一転し、CZ氏はFTX買収から手を引きました。
同年11月11日
SBF氏はTwitter上で、FTXとアラメダ・リサーチを閉鎖し、自身がFTXのCEOを辞任する旨を発表。CZ氏のFTX買収宣言撤回が致命傷となり、SBF氏による事実上の破産宣言がTwitter上で行われました。
FTXの登記上の設置国であるバハマ当局は、FTXの資産を凍結。さらにFTXの営業許可を取り消しました。
同11月12日
FTX破産宣告から数時間後、FTXに残されていた資産から6億6,300万ドル(約920億円)相当を超える資金が消失。FTX側は第三者による盗難によるものだと発表しました。しかし、FTXの破産申請という状況下での大規模な盗難だったため、内部犯行の可能性が指摘されていました。
同11月22日
連邦破産裁判所にて、FTX破産審問が開始。その結果、ずさんな経営体制や幹部による横領が明らかになりました。子会社を通じてバハマの不動産投資に約423億円(3億ドル)が費やされ、そのほとんどが幹部の自宅や別荘の購入だったという内容もありました。
同12月13日
SBF氏が滞在先のバハマで逮捕。この際、SBF氏の弁護士は25万ドルの保釈金支払いと、位置情報を提供するための足首へのブレスレット装着の条件を提示。しかし、バハマ当局側はSBF氏の逃亡の恐れがあるとして、条件を認めませんでした。
同12月22日
米検察当局は、FTXの経営破綻につながった以下の詐欺行為に関与した疑いで、同社の元最高技術責任者(CTO)のゲイリー・ワン氏、関連投資会社アラメダ・リサーチの元最高経営責任者(CEO)のキャロライン・エリソン氏を訴追。両氏とも詐欺罪を認めました。
- FTXの顧客資産をアラメダ・リサーチに流用
- FTXが発行した取引所基軸トークン「FTT」の価格操作
同12月23日
米連邦地裁はFTXの元CEOであるSBF氏の保釈を認可。これは、公判前の保釈金としては過去最大規模の2億5000万ドル(約330億円)の支払いを条件としたものでした。保釈金支払いによりSBF氏は米国へ送還され、保釈されました。
2023年11月
SBF氏が詐欺などの罪に問われた刑事裁判が2023年10月に行われ、翌月11月に米連邦地裁が以下の罪で有罪の評決を下しました。
- 顧客に対する電信詐欺の共謀
- 顧客に対する電信詐欺
- 貸金業者に対する電信詐欺の共謀
- 貸金業者に対する電信詐欺
- 商品詐欺の共謀
- 証券詐欺の共謀
- マネーロンダリングの共謀
2024年3月
米連邦地裁は、SBF氏に対し、顧客や投資家をだました詐欺の罪で禁錮25年の判決を言い渡しました。同時に、110億ドル(約1兆6600億円)の資産没収も命じたとのことです。
FTXの破綻理由
ここからはFTXが破綻に至った理由に焦点を当て、わかりやすく解説していきます。
FTXが破綻した原因は主に以下の三つだとされています。
- FTTトークンを利用した脆弱な財務体質
- 顧客資金の不正利用
- ずさんな経営管理
上記について、一つずつ説明していきます。
①FTTトークンを利用した脆弱な財務体質
FTXの資金繰りが行き詰まったのは、価値の裏付けのない「FTT」トークンに起因します。
FTTトークンは以下のような特徴を持つトークンでした。
- FTXが発行した取引所用の基軸通貨
- FTTトークンはアラメダ・リサーチに供給し、同企業が保有する資産の約4割、21.6億ドルにも昇った
- FTXは、価値の裏付けのないFTTを担保に、さらにアラメダ・リサーチに融資を行った
アラメダ・リサーチとFTX 間で価値の裏付けがないFTTの配分が混在されており、FTXはその資金を元に企業買収などビジネスを拡大しました。このようなポンジ・スキーム的な経営手法がメディアによって露呈されたため、FTXの財務不安へと一挙に発展しました。
FTTのような、資産的裏付けのない仮想通貨は値動きが激しいと言われます。期待で価値が膨らみやすい一方で、極端に下落するのが特徴です。そのため、バイナンスがFTTを清算すると発表したことを機に、市場が極端に反応。FTTの価格が急落し経営に大ダメージを与えたのでした。
②顧客資金の不正利用
FTXは、顧客が預けていた顧客資産を使って、関連の投資会社アラメダ・リサーチに融資をしてました。事件当時のFTXの顧客資産は合計で約160億ドルであり、FTXはその半分以上である約100億ドルをアラメダへの融資に使っていたようです。
上記のほか、10億ドル超の資金も不正利用に使われていた実態が明らかとなっています。SBF氏を含む元幹部らは、高級マンション、政治献金、投機的投資などのために2年以上にわたり継続的に資金を不正流用していたとのことです。
③ずさんな経営管理
2022年11月のFTX破綻後、新たなCEOに就任したのは企業破綻の後処理プロフェッショナルであるジョン・レイ氏でした。同氏は、FTXの以下のようなずさんな経営実態を目にし、これまで担当した中でも最悪だと述べました。
- セキュリティの甘さ:安全でないグループ電子メールを使った機密データへのアクセス
- 無能な人事部門:従業員リストを完成させることすらできていななかったとのこと
- 不透明な賃金台帳:会社の資金は従業員や顧問の自宅や私物の購入に使われ、そのための適切な書類も存在しなかった。従業員はチャットで支払いを依頼し、管理職は絵文字を使って支払いを承認していたと、資料には書かれている。
- 意思決定記録の紛失:SBF氏は、業務上のやり取りは短期間でメッセージが自動削除されるよう設定された通信プラットフォームに頼っていたとのこと。
FTXでは長期間にわたって、このようなずさんな管理体制のもとで経営がされていました。結果として、不透明な資金のキャッシュフローが多発していたのでした。
FTX破綻による仮想通貨業界への影響
ここからは、FTXの破綻が仮想通貨業界全体に及ぼした影響について、三つの側面から解説していきます。
- マーケットに与えた影響
- 同業者に与えた影響
- 業界に与えた影響
①マーケットに与えた影響
多くの仮想通貨トレーダーは、FTXの経営不振が他の取引所に波及するケースを恐れました。それは、FTXと同様に他の仮想通貨取引所が倒産した場合、自身の資産を取り戻すことができなくなる事態でした。
そして、事件を機に、マーケット全体で仮想通貨を現金化する動きが加速。事件直後の2022年11月6日から9日のわずか数日のうちに、ビットコインは21,000ドル付近から16,000ドル付近へと、およそ24%近くも急落しました。
ビットコインにつられ、多くのアルトコインも連鎖的に下落しました。特に影響が大きかったのはソラナです。これは、FTXとアラメダ・リサーチがソラナ・ファウンデーションから大量のSOLを買うことでソラナを支援しており、密接な関係にあったためです。この事実がソラナの保有者にネガティブに捉えられ、ソラナの売りが加速しました。
事件後のソラナのトークン「SOL」の価格は約10ドルと、FTX事件前のおよそ40ドルから75%下落。2022年は仮想通貨市場全般が1年にわたり下落傾向にあるところに、FTX破綻が追い打ちを掛けた形でした。
②同業者に与えた影響
FTXの破産はその他の仮想通貨取引所や資産運用(レンディング)会社大きな影響を与えました。その影響の一例を挙げていきましょう。
- 米資産運用会社Genesis Global Trading:事件の影響でFTXに預けていた1億7500万ドルを失い、顧客の資金引き出しを停止せざるを得ない状況に追い込まれました。
- 米暗号資産取引所Gemini:Geminiの金利サービスは上述のGenesisのプラットフォーム上に構築されていたため、Geminiの顧客の資産9億ドル(約1190億円)を回収できなくなりました。
- 米シルバーゲート銀行:暗号資産貸付部門を中心に7億1800万ドルの損失を被り従業員の大幅な削減を余儀なくされました。FTXおよび関連会社の資産を保管しており、これらの資産の回収目途が立たなくなったためです。
③業界に与えた影響
FTXの破綻は、規制当局が仮想通貨業界への締め付けを強める契機となりました。暗号資産市場への規制強化の動きとしては、以下のような事例がありました。
米国規制当局による共同声明
2023年1月、米連邦準備制度、連邦預金保険公社、通貨監督庁が仮想通貨取引への警告ともとれる共同声明を発表。この共同声明においては以下の点を主張しました。
- 各取引所は、暗号資産関連の顧客にサービスを提供するなら危険を覚悟でしなければならない。
- 仮想通貨取引おいては「詐欺やペテン行為」が横行している点
- 暗号資産企業が、企業の財務健全度を偽る危険性がある
- 暗号資産の仕組みは、安全かつ健全な銀行の慣行にそぐわない可能性が極めて高い
日本国内における暗号資産関連法整備
金融庁は外国に本社を置く暗号資産(仮想通貨)交換業者が破綻した際に、国内資産が海外に流出するのを防ぐため、法整備を進めています。不正流出が発生する仮想通貨取引において、個人投資家の資産を適切に保護することが目的です。
暗号資産交換業者を規制する資金決済法に、顧客から預かっている国内資産を海外に持ち出さないよう命じる「保有命令」を新設する計画を立てているとのことです。このほか、世界各国の規制当局の動きとしては、以下が挙げられます。
FTX事件後の動向
2024年10月、米国の裁判所がFTXの破産計画を承認。この計画においては、債権者の98%が、請求額の少なくとも118%を現金で受け取ることになるとのことです。実際の資金返済は、10月22日、11月20日、12月12日の追加審問の後に行われ、総額約140〜160億ドル(2〜2.3兆円)が顧客に返還される見込みです。これでようやく、2年前から始まったFTX事件後の破産手続きに終止符を打つことになりました。
FTXの破産財団は、顧客への返済資金の回収のため、清算手続きを進行中。例としては以下の動きが挙げられます。
- 仮想通貨取引所Bybitと2億2800万ドルの和解に合意。この和解により、FTXはバイビットに保有している1億7500万ドルの資産を引き出し、5,300万ドル相当のBITトークンをバイビットの投資部門であるミラナ社に売却することが可能になる。
- 生成AI企業アンスロピック株式を大量売却し、今後ワールドコインのオークションも開催する予定とのこと。
上記の他、FTXは現物としてイーサリアム、ソラナ、ポリゴンなども保有。これらの仮想通貨は、顧客に資産を返還するために順次売却を行っていくとみられます。
FTX事件から、私たちが学ぶこと
かつて世界2番手規模の取引所であったFTXの破綻を通じ、暗号資産業界は想定外のことが起こりうる業界だと認識を改める必要があるでしょう。そのため、仮想通貨を購入する場合は、リスク管理を徹底して自分の資産を守らなければいけません。以下に、個人でも出来るリスク管理の方法を3点紹介します。
- 仮想通貨は取引所に預けっぱなしにしない
- 複数の取引所を使う
- 複数の仮想通貨へ分散投資をする
上記について順番に解説します。
①仮想通貨は取引所に預けっぱなしにしない
取引所で購入した仮想通貨は、取引所に預けっぱなしにしておくのは、セキュリティの観点から賢明とは言えません。なぜなら、取引所はFTX事件のように、破綻やハッキング被害に遭うリスクがあるためです。
大切な暗号資産を守るために、必ずメタマスクなどの仮想通貨ウォレットで保管しましょう。
②複数の取引所を使う
FTX事件のような、取引所破綻による資産価値の下落を防ぐために、複数の取引所を使いましょう。これにより、一つの投資先や取引所が倒産しても全体の損失を最抑えることが可能です。
取引所が多く迷ってしまう方は、分散先の一つとしてDMMビットコインがおすすめです。仮想通貨の買い方がわからない初心者でも、スマホから簡単に口座開設と取引が可能です。
③複数の仮想通貨へ分散投資をする
異なる種類の仮想通貨へ資産を分散させることで、リスク管理しつつも利益を最大化することが可能です。複数の仮想通貨に投資する際は、以下のような仮想通貨を購入しポートフォリオを組むと良いでしょう。
市場に流通していない新興プロジェクト銘柄を、仮想通貨ICOで入手することで、利益を最大化させることが出来るかもしれません。1000倍以上伸びた仮想通貨もあるため、ポートフォリオの一部に組み込んでおくのも一つの手です。何を購入すればいいのかわからない方は、ReadWriteがおすすめするプレセール仮想通貨を検討すると良いでしょう。
近年、NFTゲームの分野で流通するメタバース銘柄の仮想通貨が成長分野として注目を集めています。ゲーム産業は、メタバースの発展により2030年にはおよそ30兆円市場の規模に成長すると見込まれているためです。メタバース関連で注目のブロックチェーンとしては、SUI、AVAXなどが挙げられます。
2024年1月に上場したビットコインETFを始めとして、複数の仮想通貨をあらかじめポートフォリオに組み入れた投資信託があります。今後日本国内で購入できるようになった場合、ビットコインのほかアルトコインも含まれた仮想通貨ETFを購入する事で、リスクヘッジを図ることが出来ます。
保有銘柄の利益がある程度伸びたら、USDTなどの法定通貨と連動する仮想通貨に交換して、利益を確定させましょう。
まとめ
本記事では、仮想通貨史に残る事件となったFTXの破綻について紹介しました。
FTXとは、2022年11月に突如経営破綻した大手暗号資産取引所であり、このニュースは仮想通貨業界に大きな衝撃をもたらしました。FTXの倒産は、仮想通貨マーケット全体の下落、世界各国の金融当局による業界への規制の一因となりました。
そしてこの事件は、仮想通貨投資を行う人全員に、何が起こるかわからない業界でのリスクヘッジの重要さを認識させたとも言えます。本記事で述べた資産の守り方やリスク分散の仕方を参考に、皆様が安心安全に資産を構築できれば幸いです。